【#0】プロローグ ~なわとびで解消、運動不足?~

こちらもどうぞ。

satosan-de-nawatobi.hatenablog.com

 本記事は、なわとびの「これまで」と「これから」を学術的視点から考えていこうという連載シリーズです。 その第一弾の科学的な側面から「縄跳びへの取り組み方」を考えるに入る前に、まずはプロローグ記事として(なわとびといった)運動がどのように私達の生活と関係しているのか?なぜ大事なのか?からはじめていこうと思います。

なお、本記事で用いる運動とは、健康のため、身体を鍛えるため、楽しみのため、などといった目的で身体を動かすことを示しています1


 なわとびは運動でもあり、スポーツでもある。

 「なわとび」といえば皆さんは何を思い描くでしょうか?
日本で言えば冬に体育授業で誰もが親しんだ運動ではないでしょうか。なわとびは、心肺機能向上2に最適な運動です。現代では、運動効率が高い有酸素運動としても注目を集めており、エクササイズ、コンディショニング・トレーニングプログラムとしても積極的に取り組まれるようになりつつあります。

(この有酸素運動ですが、開始直後は血中グリコーゲン/糖質が主に動力として用いられますが、数十分後になると次第に血中の脂肪を動力として利用する割合が多くなっていくということがわかっていますので、よく脂肪燃焼効果のあるダイエットとしても注目されていますよね。 )

 私は有酸素運動である縄跳びは、サイクリング(自転車)と並んで、個人の運動レベルに沿った運動計画を設計しやすいと思っています。一般的に運動効率(仕事率 P)は F(力)と V;dx/dt(速度) の積で決定されます。つまり、掻い摘んで説明すると、縄跳びの場合は跳躍力 F を2重とびや片足跳び、跳躍リズム V; spm(skipping per minutes) をそれぞれコントロールすることが可能であるからです。

 さて、話は戻りますが
一方、皆さんは御存知でしょうか?ここ10年でなわとびは、「スポーツ」としても注目を集めるようになりました。スポーツとしてのなわとびについては別の記事に紹介するとして、そもそもスポーツって何なのでしょうか?普段何気なく「スポーツ」という言葉を耳にすると思いますが、スポーツと運動って具体的にどう違うのでしょうか?

 語源を辿ってみるとスポーツ(=sport)は「気晴らし」や「楽しみ」「遊ぶ」などを意味する disport が変化した言葉であり、古代フランス語 desporter(=気晴らしをする) に由来するそうです。分解してみると de(離れる)+porter(運ぶ)という意味をもつことがわかります。別の場所に運ぶ、移す、転換するという本来的な意味から、やがて、これらは義務からの気分転換、元気の回復というような意味を持つようになったそうです3
 
 またスポーツと言っても「する」のか「見る」のか「語る」のか「支える」のかによっても分類することが可能です。
現状、なわとびは「語る」「支える」といった点が「する」「見る」と相対的に見て弱いのが現状*1で、科学的根拠に基づいて選手の練習環境をより良いものにするためのアクションが全く足りていない(次回以降の記事で紹介)と私は考えています。少し脱線し過ぎましたね....

※1 縄跳びを趣味もしくはそれ以上で取り組むアクティブ層がそもそも少ないという意味。ここには十年間の定性的な指導経験に基付く個人的な見解が含まれています。


1. はじめに ~身体活動と健康~

※以下紹介するデータは古くなりつつあるので、時間があれば最新のものも探してみようと思います

 現代では、世界規模で取り組むベき21世紀最優先の課題の一つに「生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底(NCDの予防)」が挙げられています4。国際的な動向をまとめると以下のようになります。

  • 世界の総死亡率における63%は生活習慣病が原因(2011, WHO)5
    • 感染症疾患(Non Communicable Disease, NCD) が総死亡数の63%6
    • 患者本人の自覚と積極的な治療への取組みがないと,病態の重症化を止められない疾患群(日本で言う生活習慣病
  • 日本人の65.3%はPhysical Inactivity(身体活動不足)(2011, WHO)7
    • 内訳: 男性64.4%,女性66.1%が運動不足(2008年推定値)
  • 身体活動不足(6%)は全世界の死亡に対する危険因子の第 4 位
    • 1位:高血圧(13%)、2位:喫煙(9%)、3位:高血糖(6%)
    • 2010 年にその対策として「健康のための身体活動に関する国際勧告8を発表
    • 有酸素性の身体活動の時間と強度に関する指針及び筋骨格系の機能低下を防止するための運動の行うべき頻度等が記載
  • 身体活動トロント憲章 2010(Toronto Charter for Physical Activity 2010)9
    • 科学的根拠に基づく戦略による身体活動の取組を巡る格差是正(分野横断的)
    • 身体活動の環境的・社会的な決定要因の改善に取組
    • 子ども~高齢者までの生涯を通じたアプローチ

スポーツ庁が出している最新の統計情報(2016)では、以下が報告されています10

  • 週 3 日以上の運動実施率は 19.7%
    • 「週に 5 日以上」8.8%、+「週に 3 日以上」10.9%
  • 週 1 日以上の運動実施率は 42.7%
    • 「週に 5 日以上」8.8%、+「週に 3 日以上」10.9%、
    • +「週に 2 日以上」10.8%、+「週に 1 日以上」12.2%
  • 性別に見ると、「週に 3 日以上」「週に 1 日以上」とする者の割合は男性で高い
  • 年代別に見ると、20 代~40 代で運動実施率が低く、高年層ほど運動実施率が高い傾向

補足ですが、日本はスポーツに関して言うと、国際的にも「するスポーツ」の人口が少ないことがデータとして示されている現状です11
この記事において、この現状をいかに見るかですが、それは何故か?を社会的な視点から考えていくことは、 少なくとも日本では、体育授業という固定概念を持つ縄跳びをいかにスポーツとして浸透させる(またはビジネス)ことができるのかを考える上で大事な視点です。

そのためには(日本での)健康や運動に関する取り組みを知らなければなりません。
... という位置付けが本記事になりますかね?(本記事はまとまってないので、あとで綺麗にまとめます)


身体活動不足 を解決する 運動・スポーツ

 上記データからも推測できるかと思いますが、 事実、「安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する全ての動作」を意味する「身体活動不足」が世界的に問題視されています。とまぁ、ここまでに身体活動・運動・スポーツと色々な単語が出てきましたが、とりあえず整理しておきましょうか。
身体活動とは、以下の2つにわけられています12

  • 日常生活における労働、家事、通勤・通学等の「生活活動」
  • 体力(スポーツ競技に関連する体力と健康に関連する体力を含む)の維持・向上を目的とし 計画的・継続的に実施される「運動」

日本の取組み ~運動習慣をつけて健康寿命を伸ばそう~

 身体活動量が多い人ならびに運動をよく行っている人は、総死亡、虚血性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、結腸がんなどの罹患率・死亡率が低く、身体活動や運動がメンタルヘルスや生活の質の改善に効果をもたらすことが認められているそうです13
 そこで、2013年度厚生労働省は、新たな運動指針と運動基準となる健康日本21(第2次)において、運動習慣者の増加を目標とした取り組みがスタートしています。

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(健康づくりのための身体活動基準 2013より引用)

ここでは以下の3つの目標を掲げているようです。

  • 日常生活における歩数の増加
  • 運動習慣者14の割合の増加
  • 住民が運動しやすいまちづくり・環境整備に取り組む自治体数の増加

ここでは、個人の健康づくりのための身体活動基準15として以下の3つが運動習慣者の増加を目標として推薦されています(18-64歳)。

身体活動量の基準(日常生活で体を動かす量の考え方)では

  • 18-64歳の身体活動(生活活動・運動)の基準
    • 強度が3メッツ以上の身体活動を23メッツ・時/週
    • 歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分以上 ※メッツとは16

運動量の基準(スポーツや体力づくり運動で体を動かす量の考え方) では

  • 18-64歳の運動の基準
    • 強度が3メッツ以上の運動を4メッツ・時/週
    • 息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分

体力(うち全身持久力17)の基準

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(↑健康づくりのための身体活動基準 2013より引用)

なお、上図内の28については、「3分程度継続し疲労困ぱいに至るような運動中に最大酸素摂取量が観察されることが多く、その際の運動強度は全身 持久力の指標となる。なお、これらの数字はあくまでも測定上の指標であり、望ましい運動量の目標値ではない点に注意する必要がある。」とされています。

体力 の定義

 体力の定義については以下がわかりやすいと思います18

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公益財団法人長寿科学振興財団,体力測定より引用

 身体運動強度 運動強度 メッツ の違い

 記事をまとめているうちに、やはり専門用語が乱立してしまっていましたので、ここで整理しておきましょう。

  • 身体活動強度:身体活動の種類における身体活動の強さを示した指標
    • エネルギー代謝
      • 活動エネルギー量が基礎代謝量の何倍にあたるかによって活動強度の指標。体格、性別、年齢を考慮した基礎代謝量を基準とし、体格、性別、年齢に関係なく強度を利用可能。
    • メッツ
      • 身体活動時のエネルギー消費量が、安静時エネルギー消費量の何倍にあたるかを指数化。安静状態を維持するために必要な酸素量を性別、体重に関わらず「3.5ml/kg/分」を1メッツ。
      • 体重50kgの人が、6METsの運動強度で30分運動した場合のエネルギー消費量は : 6kcal/kg/時・0.5時間・50kg=150kcal
    • エクササイズ
      • メッツ・時
  • 運動強度:身長や体重などの身体的特徴の違う対象者に対しても活用することができる「運動の強さ」の指数
    • 最大酸素摂取量
    • 最大心拍数

詳しくはエネルギー代謝率⇔メッツはこちらにわかりやすい資料があります19


あなたは運動習慣者? METsの計算方法

 運動習慣者を目標とした上記ガイドラインに沿って具体的にどれくらいの運動をすればよいのかを考えてみます。

  • 18-64歳の身体活動(生活活動・運動)の基準

    • 強度が3メッツ以上の身体活動を23メッツ・時/週
    • 歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分以上
  • 18-64歳の運動の基準

    • 強度が3メッツ以上の運動を4メッツ・時/週
      • 歩行またはそれと同等以上
    • 息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分

基礎代謝量が 1396-1475 kcal の(自分の)場合を考えてみます。
23 メッツ・時は23 エクササイズ(EX)に値するので、週23EX超えていればクリアーということになります。

身体活動の場合(細やかな動作(料理・掃除などは除いて考えました))

  • 徒歩(通学時+大学内):一日平均30-40分程度。早歩きしています。
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上記より平日5日間として,3.5 METs * 0.5 h * 5 (Days) = 8.75 EX

運動の場合(週平均2-3回運動しているので...↓)

  • サイクリング(練習場所への移動):4-6分程度
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上記より2日間として,4.0 METs * 4/60 h * 2 (Days) = 0.53 EX

  • なわとび練習:60-120分程度
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上記より2日間として,11.8 METs * 1.0 h * 2 (Days) = 23.6 EX

まとめますと、合計 32.88 EX/週でした。運動頻度・時間も考慮すると、運動習慣者に該当していますね。

縄跳びって他のスポーツと比較しても、かなりハードなんですね。


まとめ

結果、"以上までの背景を踏まえた上で言いたいこと"は、以下の三点になります。

縄跳びって

・水泳やランニングと比較しても、運動効率は高い※

・安価 & 省スペースで運動が可能

・子供から大人まで、個人のスキルレベル(スピードを上げる、飛ぶ回数、跳躍力)に対応できる
※本記事の頭で解説


今後の予定記事

  • #1: 科学的な側面から「縄跳びへの取り組み方」を考える
  • #2: なわとび研究紹介 ~学術的研究意義~(前半)
  • #3: なわとび研究紹介 ~最先端研究の紹介と課題~(後半)


その他

Markdown備忘録(調べる手間を省きたいので)
  1. Markdown記法まとめ(見出し、段落、改行、水平線、強調、引用、コード)[1/3] - はしくれエンジニアもどきのメモ
  2. はてなブログで「Markdown記法一覧」を書いてみるテスト - そっと、はてなブログ
  3. Markdownでの脚注の書き方 - mmkns

その他、全く更新が進んでいませんが次の記事も是非.
(内容も深めていきたいのですが時間が取れず残念な内容になってますが) satosan-de-nawatobi.hatenablog.com satosan-de-nawatobi.hatenablog.com


参考文献と脚注(フォーマットは揃えていません..)


  1. Ja.wikipedia.org. 運動. [online] Available at: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%8B%E5%8B%95 [Accessed 2017].

  2. Heart.org. Jump Rope for Heart Event. [online] Available at: http://www.heart.org/HEARTORG/Giving/ForSchools/JumpRopeforHeartEvent/Jump-Rope-for-Heart-Event_UCM_315609_SubHomePage.jsp# [Accessed 3 Feb. 2018].

  3. Ssf.or.jp. 1-1 スポーツとは何か | スポーツの歴史. [online] Available at: http://www.ssf.or.jp/history/essay/tabid/1112/Default.aspx [Accessed 2017].

  4. 2011年9月,国連サミットで宣言.世界の医療・健康政策分野でNCDに対する取組みの重要性が認識.

  5. 生活習慣病は非感染症疾患(NCD)に含まれる.ほか,具体的な疾患として慢性呼吸器疾患,脳血管疾患,慢性心疾患,がんをWHOは挙げている

  6. Who.int. [online] Available at: http://www.who.int/nmh/publications/ncd_profiles_report.pdf [Accessed 2017].

  7. “Aged 15 or older engaging in less than 30 minutes of moderate activity per week or less than 20 minutes of vigorous activity three times per week, or the equivalent.” from Who.int. WHO | Physical Activity and Adults. [online] Available at: http://www.who.int/dietphysicalactivity/factsheet_adults/en/ [Accessed 2017].

  8. Apps.who.int. Global Recommendations on Physical Activity for Health. [online] Available at: http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/44399/1/9789241599979_eng.pdf [Accessed 2017].

  9. Jaee.umin.jp. 身体活動トロント憲章-世界規模での行動の呼びかけ-. [online] Available at: http://jaee.umin.jp/doc/torontocharter-japanese-20may2010.pdf [Accessed 2017].

  10. Mext.go.jp. スポーツの実施状況等に関する世論調査平成28年11月調査):スポーツ庁. [online] Available at: http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/chousa04/sports/1381922.htm [Accessed 2017].

  11. 大修館書店、最新体育・スポーツ理論改訂版より(p.12、図1 スポーツ白書2010 笹川スポーツ財団).

  12. Mhlw.go.jp. 「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」について. [online] Available at: http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple.html [Accessed 2017].

  13. 同上.

  14. Www1.mhlw.go.jp. 身体活動・運動. [online] Available at: http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/b2.html [Accessed 2017]. より「週に 2 日以上、1 回 30 分以上、1年以上継続して行っている場合」

  15. 上記9,10と同様のリンク先 (p.5, PDF).

  16. 2011 Compendium of Physical Activities: A Second Update of Codes and MET Values. Ainsworth BE, Haskell WL, Herrmann SD, Meckes N, Bassett DR Jr, Tudor-Locke C, Greer JL, Vezina J, Whitt-Glover MC, Leon AS. Med Sci Sports Exerc. 2011, 43(8):1575-1581.

  17. Mhlw.go.jp. 運動基準・運動指針の改定に関する検討会報告書. 平成 25 年 3 月. [Accessed 2017] において「全身持久力とは、できる限り長時間、一定の強度の身体活動・運動を維持できる能力である。一般的には粘り強く、疲労に抵抗してからだを動かし続ける能力」として報告。

  18. Tyojyu.or.jp. 高齢者の体力測定 | 健康長寿ネット. [online] Available at: https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tairyoku-kiki/tairyoku-sokutei.html [Accessed 2017].

  19. Mhlw.go.jp.特定保健指導の実践定期指導実施者育成プログラム. [online] Available at: http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/info03k-06.pdf [Accessed 2017].