なわとび研究、はじめました【なわとびコラム①】

なわとびコラムとして,シリーズ化していけたらなという感じで,なわとびに関する先行研究などを紹介していけたらいいなと思っています.
できるだけ難しい言葉を用いず,わかりやすく,噛み砕いて説明するつもりで書いていますが,所々書くのに疲れて支離滅裂になっていたらすみません汗

 

1 私たちとなわとび運動

 

 現代では,心肺機能の向上,骨粗鬆症生活習慣病の予防・改善のために,長時間に渡って継続可能な軽・中程度の負荷の運動(有酸素運動)が注目されています.中でも,なわとび運動は,多くの競技スポーツにおいて,ウォームアップ,フィットネスそしてトレーニングに取り入れられています[1].このように,なわとびが各所にもたらす恩恵は大きいのではないかと考えています.
あ、みなさんも体育の授業で縄跳びを跳ばれた経験ありますよね.(思い返せば低学年の頃は,2重跳びに苦戦していたなぁ..)
 

さて,
なわとび運動では,体に引っかからないように縄を回し,それを跳び越える動作が求められます.ここでは,特に縄を回すため上肢と,跳躍のため下肢の運動を共同的に行うことが,上手に跳ぶために必要とされます.

 

2 なわとび運動における面白い特徴

 

 さて,ここで一度目を閉じて,自身が思いっきりジャンプする様子を思い浮かべてみてください.もちろん,実際にジャンプしていただいても構いません.

どうでしょうか?飛び上がったときに,腕も一緒に上に振り上げていませんか?
一方で,なわとび運動では,飛び上がったときに,腕は振り下げなければなりません.

 このように,縄跳び運動の特徴として,跳躍方向と,腕の運動方向は対の関係にあることがわかります.きっと皆さんが,なわとび運動をはじめて間もない頃は,まず縄を一度たたきつけてから,それらを跳び越えていたのではないでしょうか? そして次第に,回すと跳ぶ動作を上手にタイミングよくできるようになると,前とびが跳べていたのではないでしょうか.(これらについては,また後で詳しく述べていきます.)

 

3 なわとびを上手に跳ぶには?何が大事?

 
 上手になわとびを跳ぶには,回す,跳ぶといったことも大事ですが,重心の安定性,いわゆるバランスも大切です.なわとび運動中,私たちは何故倒れないのでしょうか?どのようにバランスを保持しているのでしょうか?
(備考:効率よく回すための(上肢による)回旋技術,跳ぶための(下肢による)跳躍技術が存在していることが報告されています.次回の記事でご紹介するかもしれません.)

 さて,ここでもう一度目を閉じて,自身がなわとびを跳んでいる様子を思い浮かべてみてください.まずは,前跳び,2重跳びを跳んで,次は3~7重跳びまでに挑戦してみてください.目線はどこにありましたか?上手に跳ぶために,縄が足下を通過するところを注意して見るというのもありますが,多くの方は,目線をどこか遠くの一点に置いて,ボーっと眺めているのではないでしょうか?

 一点をボーっと眺める行為,つまりは視線の固定化は,脳への無駄な情報をカットオフする働きがあるとされ,時に集中力の向上にも繋がることがあるそうです(QuietEye).なわとび運動において,連続跳躍によって発生する衝撃に身を任せると,頭部はぐわんぐわんと動いてしまいますよね(※大変危険ですので行わないこと).このように,頭部が動いてしまうと,もちろん視線もズレてしまいます。

バランスを保つためにも,このズレを補正するように眼球を動かさなければなりません.この働きは,漢字ばかりで難しいですが,前庭動眼反射(Vestibular ocular reflex : VOR)と呼ばれています.私たちが,なわとび運動を跳んでいても倒れないのは(この反射性眼球運動によって頭部が動いているにもかかわらず)視線を一定に保つことができているからだと考えられるでしょう.なぜ,上手になわとびを跳ぶ事ができるのか,このVOR調べてみると面白いことがわかるかもしれませんね。

 

 ただし,視覚だけでは、自分の手や足がどの位置にあり,どの方向にどれくらい動いているのかといった情報を,全て把握することは難しいですよね.このような自分の手や足がどの位置にあり,どの方向にどれくらい動いているのかといった情報も,バランスを保つために大切です.これらは,筋骨格系からの伝えられる情報であり,これを固有受容器(感覚)といいます.(筋肉の長さの変化を脊髄へ伝え,脊髄反射を介して姿勢・運動の調節を行う筋紡錘といった複数の感覚器より脳に送られる,複合的な情報です.) 

なわとび運動では,上肢ならびに下肢における大きな筋肉から小さな筋肉までを一度動かさなければなりません.

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Fig. 1 なわとび運動に動員される主要な筋群 ([1]より引用)


そのため,効率よく筋肉を動かさなければ,多くの体力を消費するだけでなく,筋肉に加わる負担も大きくなってしまいます.最悪の場合,肩をはじめ,膝やアキレス腱などに関する怪我を引き起こしてしまいます.そこで,上手に跳ぶためには,適切な筋を,適切な時刻に,適切な強さで活動させることが重要です。これらはそれぞれポジショニング,タイミング,グレーディングとも呼ばれています.

なわとび運動のような高度な運動能力が求められる全身運動では,脳に送られる信号(i.e. 身体部位を動かすための指令 etc )は複雑化します.さらに,私たちはそれらを一度に処理し,制御する必要があります(運動に関連する運動皮脳や小脳などの働きは活性化すると考えられるため,結果として脳に良い影響を与えるのかもしれません).

上手になわとびを跳べるように脳によって体を制御していくには,多くの時間と経験を積んでいく,いわゆる学習が必要になります.ここでは,なわとびの練習を繰り返し,これらに関連する脳内の神経細胞間におけるシナプス結合強度を上げていくことで,“効率よく上手になわとびを跳ぶために必要なスキル(技術)”を習得することが大切です.頭を使って練習あるのみ,ですね.

 

4 最後に

 小学校の体育授業や,なわとび競技の世界では,Word of mouthのような定性的な指導方法に依存してしまっている現状です.近年,この定性的で曖昧な指導方法ゆえに起こってしまった怪我が報告されてきています[2].なわとびの運動原理を解明していくことで,何が正しく,正しくないのかといったこと ( e.g. 着地時の(身体への)衝撃をいかに和らげるか,そのためには,どんな跳び方が良いのかなど ) を科学的根拠に基づいてハッキリさせていく必要性があると,私は考えています.

 

一刻も早く研究成果を世の中に発信できるように,頑張ります.
といいつつも,まずは,どうやって研究費を獲得していくか…
研究するのも,縄跳びだけに,一筋縄には行きませんね.

 

P.S.

なんだかまとまりのない記事になってしまいましたが,次回もお楽しみください.

 

参考文献

[1] Buddy Lee, "Jump Rope Training 2nd Edition".

[2] B. Olivia, et al, “Principal components analysis to characterize fatigue-related changes in technique: Application to double under jump rope”, Journal of Sports Sciences, 2016.

 

【続き】

satosan-de-nawatobi.hatenablog.com

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